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東京高等裁判所 昭和25年(行ナ)19号 判決

原告 前田泉

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

第一、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十五年抗告審判第二五一号事件について、昭和二十五年九月四日にした審決を取り消す。」との判決を求めると申し立て、被告指定代理人は、主文第一項と同趣旨の判決を求めた。

第二、請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は、昭和二十三年八月八日その発明にかゝる複針附電気計器について特許を出願したところ、(昭和二十三年特許願第七一一七号)昭和二十五年四月二十日拒絶の査定を受けたので、同年五月二十日抗告審判の請求をしたが、(昭和二十五年抗告審判第二五一号)特許庁は、昭和二十五年九月四日「審判請求は成立たない。」との審決をし、その謄本は、同月九日原告に送達された。

二、右審決の理由の要旨とするところは、本願の発明は、日立評論社発行月刊雑誌「日立評論」昭和十七年九月号の第八頁及び第九頁に記載された自照式位置指示計の説明(乙第二号証の二)並びに右審決において甲第二号証として提出された位置指示計組立図(乙第三号証)より、当業者が必要に応じ容易に実施し得るものと認められる。右組立図は、国内に頒布された刊行物ではないが、この組立図によつて、昭和十七年五月頃前述の指示器が日立製作所多賀工場において製作せられ、該工場は、当時兵器関係以外のものは一般に見得る状態にあつたから、右組立図も公知の状態におかれたものと認めるのが至当であるというのである。

三、しかしながら、原告の発明は、同一電気現象に対し、同一の目盛を指示させるようにした可動線輪を同一垂直線上に装置した複針附電気計器に係り、その目的は、同一時点における二以上の電気現象を、正確且つ容易に測定しようとするものであつて、前記の可動線輪を同一電気現象に対し同一目盛を指示させるには、複数の可動線輪の性能を同一ならしめて調整することを要するものである。

四、右原告の発明の要旨に徴し、抗告審判の審決は、次にかゝげる理由で違法であるから、その取消を求める。

(1)  審決に引用された位置指示計の説明には「SL42型位置指示計は、普通の位置指示計の要素二組を纏めて一箇のケースに収納したもので、同一目盛板上に二本の指針が二種類の量を相関的に指示するようになつている。この計器は、水車の導水弁の開度及び負荷制限器の制限位置を相関的に指示せしめるに使用している。」と記載されているが、かかる記載から、本件発明が容易に想到されるものではなく、彼此全く性質及び目的を異にしている。

(2)  審決は引用した組立図に関し、「右組立図から見るに、本願と同様に同一直線上において、各々別個の軸に、それぞれ可動線輪を装置し、これに各一個の指針を設け、二つの電気的に変化せしめられた現象に対して、同一板面上に表示した同一目盛を指示させるようにした複針附電気計器であることが明かである。」と断定しているが、該図面には何等の説明もなく、従つて何を表現するかは、第三者には全く了解しがたく、その構造及び原理は全く不明であつて、かゝる図面から、本件発明が容易に想到し得るものと断ずるのは著しく不当である。

(3)  審決においては、(イ)右組立図が昭和十七年頃日立製作所多賀工場で製図されたかどうか。(ロ)右組立図により、昭和十七年五月頃本件発明と類似すると称する位置指示器が製作されたかどうか。(ハ)そしてその指示器が昭和十七年五月頃一般に見得る状態にあつたかどうか。について、何等これを認めるに足る証拠がないのに、特許異議申立人の申立をそのまゝ証拠としたのは不当である。

(4)  前記位置指針器が兵器以外のものであるからとの理由で、審決のいうように、直ちに一般に見得る状態にあつたとなすのは失当である。兵器関係以外でも、事業上公開の必要のないもの、更に秘密を保持しなければならないものは、一般に見得ない状態におかれるのが通例で、かゝるものは公知といゝ得ないことは勿論であるから、果して当該指示器が一般に見得る状態にあつたかどうかを決定すべきである。

また仮りに前記の指示器が公知の状態におかれたとしても、指示器の公知と組立図の公知とは全然別個なものであつて指示器の公知より、直ちに組立図も公知であると断定することはできない。

従つて、仮に指示器が公知であつて、本件発明がこれに類似するとしても、審決のように、指示器自身に非ずして、指示器の組立図を引用して本件発明の新規性を判定するのは不当である。

(5)  本件発明は、明細書にも記載したように、複数の真空管の同一時点における性能を測定することができるとともに、複数の真空管の同一時点における性能を同一ならしめるように調整するには、単に各個の可動線輪に設けた指針をして、同一目盛を指示させるように適宜に操作するだけで足りるから、引用の位置指示計とは、その性能、実施範囲を異にし、別異の発明を構造するものである。

第三、被告の答弁

被告指定代理人は、原告主張の請求原因に対して、次のように述べた。

一、二、の事実並びに四のうち抗告審判の審決及び引用例に原告主張のような記載のある事実は争わない。

四について、原告の審決に対する非難はその理由がない。

(1)  本件発明の要旨は、同一直線上において、各々別個の軸に、それぞれ可動線輪を装置し、該可動線輪にそれぞれ各一箇の指針を設けると共に、これ等指針をして、同一電気現象に対して同一板面上に表示した同一目盛を指示させるようにした複針附電気計器である。一方、審決に引用された日立評論の説明(乙第二号証の二)の計器も、電気計器であつて、その説明には、原告が三の(1)に引用した記載に続いて、「従来はこの種計器を二箇別々に指示せしめて居たが、本器の如くすれば、一目で関係位置を知ることができて、監視者に取り便宜至極の指示計である。」と記載している。したがつて、本件発明の要旨である、二組の指示計器を一緒にまとめて一箇の計器とし、二本の指針が一つの共通の目盛板を別々に指示し、二つのものを同時に測定することができて、便利よくしたという思想は、前記引例と同一である。尤も、可動線輪を同一直線上において別個の軸に装置してあるかどうかは、前記引用例では明瞭ではないが、二つの指針が別々に動作するためには当然別個の軸に装置された可動装置が必要であるのは当然であり、これを同一直線上に配置するかどうかは、単なる設計変更の程度に過ぎない。また、この種のメーターで可動線輪式のものが使用されることは、周知のことであるから、引例が公知である以上、本願のようなものが必要に応じ、当事者が容易に実施し得るものと認めるのが至当である。

(2)(3) 引用の図面には、原告の云うとおり、一つ一つ詳細な説明はないが、少くともこの種の計器の製作その他これに関係している技術者に取つては、図面に示された構造から、その作動を判断でき、また、右図面における名称、構造、製図及び備付年月日の記載と前記説明とを対比すれば、右組立図が昭和十七年頃日立製作所多賀工場で製図され、これに基きその頃前記位置指示器が製作されていたことは明らかである。

(4)  そして、右位置指示器は、月刊雑誌「日立評論」にも発表されたように、決して秘密に取り扱われたものでなく、日立製作所多賀工場において、これが製作当時同社関係者以外の人々に見学せしめている。またその設計図である右組立図も当時同様公知の状態におかれていた。

(5)  引例の計器は、水車の導水弁の開度と負荷制限位置を指示せしめ、本件発明のものは、同じ性質の真空管の特性を比較するのに使用する点において相違するが、かゝる相違は、計器の使用上の差異に過ぎず、引例のものを、本件発明の実施例のように、二つの真空管の特性を比較するために使用することも容易に考えられることであつて、この点で発明を構成するとは考えられない。いわんや本件発明は、前述の要旨にも明かのように一定の構造を有する複針附電気計器自体の構成を主眼としているものであるから、その用途は色々の方面に適応されて然るべきもので、引例から必要に応じ当業者が容易に実施し得るものであつて、新規の発明を構成しない。

第四、(証拠省略)

三、理  由

一、原告主張一及び二の事実については、当事者間に争がない。

二、本件発明は、一箇の軸と、一箇の可動線輪と一箇の指針から成立する同一性能の可動線輪型計器の要素複数組を、各軸が同一直線上にあるように配置するとともに、共通の一箇の目盛板上において、各指針が同一電気現象に対して同一目盛を指示するようにした複針附電気計器を要旨とし、同時に二以上の電気現象を一目盛板上において、正確かつ容易に測定せんとするものであることは、その成立に争のない甲第一号証(特許願)中の明細書及び図面によつて明らかである。

三、次にその成立に争のない乙第二号証の一、二、三によれば、特許庁が審決に引用した日立評論社昭和十七年九月十日発行の月刊雑誌「日立評論」第二十五巻第九号の第八頁及び第九頁には、第十四図SL42型自照式位置指示計として、Positionと大きく横書された目盛板上に二箇の指針が、一は目盛50を指し、他は25と50との中間を指している計器の写真が示され、その説明として、「第十四図に示すSL42型位置指示計は普通の位置指示計の要素二組をまとめて一箇のケースに収納したもので、同一目盛板上に二本の指針が二種類の量を相関的に指示するようになつている。この計器は、水車の導水弁の開度及び負荷制限器の制限位置を相関的に指示せしめるに使用している。従来はこの種計器を二簡別々に指示せしめていたが、本器のようにすれば一目で関係位置を知ることができて監視者に取り便利至極の指示計器である。」と記載している。

右の写真と説明とを綜合すれば、右に掲載された計器は、普通の位置指示計の要素二組をまとめ、同一の弧状をなした目盛板上において、二本の可動指針がそれぞれ導水弁の開度と負荷制限位置とを同時に指示するようになつている指示計器であることは明白である。そして右二箇の可動指針が弧状の目盛を共用するには、各可動部分の軸が同一直線上になければならないことは当然であり、しかもこの種計器が同一性能の電気計器であることは、当業者の常識であるといわなければならない。

よつて、本件発明の計器と右に引用した計器とは、いずれも一箇の軸と一箇の指針とを有する同一性能の計器の可動要素複数組を、各軸が一直線上にあるように配置するとともに、共通の一箇の目盛板上において、各指針が同一電気現象に対し、同一目盛を指示するようになつている複針附電気計器であつて、複数の電気現象を同時に同一目盛板上で容易に測定し得るものである点において一致している。たゞ本件発明の計器が可動線輪型であるのに対し、引用の計器がそうであるかどうか明かでない点において差異があるが、電気計器として可動線輪型を採るか他の型式のものを採るかは当業者がそれぞれ計器の用途目的に応じ、任意に取捨選択し得るものであつて、右の差異は、いまだ、別異の発明を構成せしめるに足りない。

原告は四、不服理由の(1)及び(5)において、前記の日立評論の記載からは本件発明は容易に想到せられず、また両者は性能、目的、実施範囲を全然異にしていると主張するが、右評論記載の写真及び説明から前述の事実が認められるのは当業者の常識であり、しかしてその構造の要部において一致する以上、本件の発明は容易に想到せられるものといわなければならない。また、その目的も両者とも、従来別々の計器を使つていて不便であつたのを一箇の計器にまとめて、二つ以上の電気現象を同時に正確かつ容易に測定しようという点は全く同一であつて、ただその直接計量の目的が、本件発明にあつては、主として真空管の性能比較調整のため同一電気現象を比較測定せんとするものであるのに対し、引用の計器は、電気的現象に変化させた、水車の導水弁の開度及び負荷制限器の制限位置の相関的測定であるが、両者が物として要部の構造を同じくする以上右目的及び実施範囲は、いずれも当事者が必要に応じ容易に変更実施することができるものであり、これまた別異の発明を構成するものとは認め難い。

四、更に原告は、四、不服理由の(2)(3)(4)において、特許庁が審決に引用した組立図(乙第三号証)について、詳細に不服の理由を述べているが、すでに本件発明が、新規な発明となし得ないこと前段において説明したとおりであるから、右(2)(3)(4)に述べられた争点については進んでその判断を必要としないものといわなければならない。

五、以上の理由により、原告の抗告審判請求は成立たないとした特許庁の審決は相当であつて、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決した。

(裁判官 中島登喜治 薄根正男 原増司)

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